(2) 学習者が作ることに意義あるデジタルストーリーテリング
さて、ここまでデジタルストーリーテリングを説明すると、将来、教員を目指したり、教育関係の仕事を希望する大学生の人なら、「教師が授業で何か教科の学習用に説明するデジタルストーリーを作ればおもしろい」「教師が遠足や修学旅行の写真をつなげて児童生徒に見せれば興味をもってくれるだろう」なんて考える人が多いかもしれません。
デジタルストーリーテリングは、教師が児童生徒に教材を提示したり、学校での活動の様子を保護者や地域の方々にお見せすることに使えます。このような使い方は、従来からある紙芝居の見せ方と同じで、教師が「語る人」で、児童生徒は「聴く人」なのです。
私がこだわりたいことは、このような「教師→子ども」の流れではなく、子ども自身によるデジタルストーリーの制作です。例えば、子どもによるストーリーテリングとして、
・社会見学、遠足、修学旅行の体験を短いストーリーとして作る
・社会 歴史について調べたこと
・理科 実験、観察でのまとめ
といった活用です。
実際に、デジタルストーリーテリングを先進的に教育の場で取り入れている米国では、あらゆる教育レベル、教科の学習に導入されているそうです。筆者と協同でデジタルストーリーテリングの実践研究にとり組むEOさん(北アリゾナ大学大学院生)によれば、 米国の学校では、「私について」や「私の夏休み」といったテーマで、学習者が短い作品を制作し、作品を視聴し合う活動が盛んに行われています。他にも、
・社会科 「戦争について」
・理科 「動物の成長記録」
・道徳 「タバコについて」
・生徒指導「身近で起こった犯罪」
といったテーマで、デジタルストーリー制作が進められているそうです。
特に、移民の国、多民族国家の米国では、作品の多くに「自分探し」の要素が含まれている、とEOさんが指摘しています。家族のルーツを調べることにより、自分をアイデンティティーを見直す、という狙いが感じられるそうです。北アリゾナ大学教育学部では、デジタルストーリーテリングの制作が必須となっており、その作品発表では、作者である学生発表をしながらが感動して涙を流すという場面を、EOさんは数多く見かけているそうです。
このように、欧米の学校や大学の授業で、なぜデジタルストーリーテリングが注目されているのでしょうか。欧米でデジタルストーリーテリングに興味をもつ人が増えたのは、1990年代後半ぐらいだと思いますが、注目された理由を一言で言うと、「表現力」の育成がねらいです。 ストーリーテリング制作では、人に何かを伝えたり、人を楽しませたりする、人が生まれ持った能力が必要とされます。
この本の読者の方々に、まずわかっていただきたいのは、デジタルストーリーを「教える人(教師)」が作るだけでなく、「学ぶ人」、つまり、児童生徒が自分自身のストーリーを作ることに意義があるということです。